2013年05月18日
日本消化器がん検診学会
「ヘリコバクター・ピロリ除菌療法に関する理事会声明」を受けて
平成25年4月に、日本消化器がん検診学会「ヘリコバクター・ピロリ除菌療法に関する理事会声明(http://www.jsgcs.or.jp/02news/notice60.html)」が出され、当NPOが推奨する、胃がん対策としてのヘリコバクター・ピロリ除菌療法、胃がんリスク検診(ABC検診)に対して否定的な見解が述べられていることに対し、当NPO理事会としての考えを発表いたします。
●ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)除菌療法について
ピロリ菌感染が胃がんのリスクファクターであることは、数多くの基礎実験、臨床研究により実証されており、1994年世界保健機構(WHO)は、ヘリコバクター・ピロリを胃がんの確実発がん因子とし、B型・C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、タバコやアスベストと同じ、最高の危険性を示す「グループ1」に分類しました。
平成24年6月、厚生労働省は「がん対策推進基本計画」で胃がんとピロリ菌の関係を取り上げ、「ピロリ菌除菌の有用性についての検討」を取り組むべき課題としました。平成25年2月、厚生労働省保険局医療課はヘリコバクター・ピロリ感染症の診断・治療対象に「内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者」を追加保険適用としました。
ピロリ菌除菌による胃がん予防効果の評価は、これからの課題ですが、肝細胞がんの原因である肝炎ウイルスの除去治療が肝がんの発生を激減させたことと同様に、ピロリ菌除菌が胃がん発生に抑制効果をもたらすことは十分期待されます。
ピロリ菌除菌療法は40歳未満の若年時に行なえば、胃がん予防効果が非常に高く、他のピロリ菌感染症の一次予防も期待できます。ピロリ菌除菌療法は、費用が安く、重篤な副作用の少ない治療であり、当NPOはピロリ菌除菌による胃がん予防効果のメリットは大きく、デメリットは少ないと考えます。
また、ピロリ菌除菌療法を保険診療で行なう場合、医師には患者に十分な説明を行なう責任があり、学会声明文において懸念されている「無計画な除菌治療への誘導」が行なわれる余地はない、と言えます。
●除菌後の内視鏡検査について
ピロリ菌除菌後も胃がん発生のリスクが残りますので、除菌後も長期的・定期的内視鏡検査は必要です。
●胃がんリスク検診(ABC検診)について
ABC分類は、血清ヘリコバクター・ピロリIgG抗体と、萎縮性胃炎のマーカーである血清ペプシノゲン値を組み合わせて効率よく胃がんリスクを評価する方法で、有効性に関して国内外の報告があります。当NPOはABC分類を応用した「胃がんリスク検診(ABC検診)」を、X線胃がん検診の代用としてではなく、胃がん対策のファーストステップとして、公的な検診や職域検診を含むすべての検診現場に導入することを推奨します。
学会声明文ではABC検診を「胃がん検診」と位置づけていますが、これは間違いです。ABC検診は「死亡率低減効果等、有効性のエビデンスが得られていない」と批判していますが、胃がんリスク検診(ABC検診)は胃がんそのものを発見する検診(胃がん検診)ではないので、胃がん死亡率低減効果では有効性を評価しません。これは、「肝炎ウイルス検診」を、肝がん死亡率減少効果で有効性を評価しないのと同様です。
●これからの胃がん対策
胃X線検診は、わが国の胃がん対策で偉大な業績を残してきましたが、胃X線検診の有効性が評価された時代と現在では、疾病構造も医療状況も大きく異なっています。胃がんの原因がピロリ菌と特定された以上、従来の二次予防(早期発見、早期治療)から一次予防(胃がん発生の予防)に転換することは当然のことです。若年層ではピロリ菌感染率が低下しており、リスクを考慮しない一律の胃X線検診を推奨し続けることは、胃がんリスクの低い多くの受診者に放射線被曝等の不利益をもたらします。また、胃X線検診では、受診者減少・固定化、実施医療機関の減少、設備の老朽化、従事する医師等の減少も進んでおり、これからの胃がん対策の主役を担えるものではありません。
胃がんリスク検診(ABC検診)によるマススクリーニングでピロリ菌感染者(ピロリ菌感染胃炎患者)を囲い込み、その後は保険診療で定期的・長期的に内視鏡検査を行い、胃がんの早期発見に努め、ピロリ菌感染者に除菌療法を実施することで、将来の胃がん死亡者数の激減が期待できます。また、医療資源有効活用の点からも、合理的な胃がん対策であると考えます。われわれの試算では、従来の胃がん検診から、胃がんリスク検診(ABC検診)をファーストステップとする胃がん対策へシフトすることで、単年度133億円、5年継続で1865億円の経費削減が見込まれます。
当NPOは、ピロリ菌感染が胃がんの主因であると判明した今日、胃がん対策は「胃がんになってから見つける」時代から、「胃がんを予知して予防した上、早期発見を目指す」時代が到来したことを強く国民に訴え、今後とも「胃がんリスク検診(ABC検診)」、「ピロリ菌除菌療法」、そして「ピロリ菌感染者にはピロリ菌除菌後も定期的・長期的内視鏡によるフォローアップ」の普及啓発に努めます。